ハンバーグにこっそり混ぜても、細かく刻んでチャーハンにしても、なぜか見つけ出されて、お皿の隅によけられてしまう、緑色のピーマン。
それを見た瞬間の、親としての、あの、なんとも言えない気持ち。
「今日もダメだったか…」
「私の料理の仕方が、いけないのかな?」
「栄養バランスを考えているのに、どうして食べてくれないの…?」
毎日続く食卓の“小さな戦い”に、正直、ちょっと疲れちゃっていませんか。 そして、その「嫌い」を、いつの間にか「自分の責任だ」なんて、背負い込んでしまっていませんか。
これは、その重たい荷物を少しだけ下ろしてみるための、親子のための〈社会科見学〉です。「どうやって食べさせるか」の前に、まずは「なぜ、子どもはピーマンが苦手なのか」という、ふしぎな体の仕組みを、一緒に探検してみましょう。
犯人は、「育て方」ではなく「生き残りスイッチ」
結論から言ってしまうと、子どものピーマン嫌いは、親の責任である可能性は、とっても低いです。
では、本当の“犯人”は誰なのでしょう? それは、大昔から私たち人間に備わっている、「命を守るための、すごいセンサー(生き残りスイッチ)」なんです。
1. 子どもの舌は、超・高性能な「安全アラーム」 大昔、まだ食べられるものが分からなかった時代、人間はどうやって安全な食べ物を見分けていたのでしょう?
- 「苦い(にがい)」=「毒(どく)かもしれない!」
- 「酸っぱい(すっぱい)」=「腐っている(くさっている)かもしれない!」
この2つを素早く察知することが、生き残るために何より大切でした。 子どもの舌は、この「安全アラーム」が、大人の何倍も敏感にできています。
ピーマンに含まれる「アルカロイド」という成分。これはピーマンの個性であり栄養なのですが、子どもの敏感な舌は、それを「苦い!=もしかして毒?」とキャッチしてしまうんです。
つまり、ピーマンを「べーっ」と出してしまうのは、「わがまま」なのではなく、「私、ちゃんと自分の体を守ってます!」という、本能的なサインだったんですね。
2. 知らない食べ物は、まず「警戒」する さらに、子どもには「食物新奇性恐怖(しょくぶつしんきせいきょうふ)」という、これまた本能的なプログラムがあります。 簡単に言うと、「見慣れない食べ物は、とりあえず警戒して食べない」という安全策です。
これも、むやみに新しいものを口にしてお腹を壊さないための、大切な知恵なんです。
「食べなさい!」が、逆効果になる理由
「本能なのは分かったけど、じゃあ、どうすれば…?」 ここで私たちがやりがちなのが、「体にいいから、一口だけ!」と、食卓で“小さな戦い”を始めてしまうことです。
でも、これが逆効果になってしまうことがあります。
なぜなら、子どもにとって、ピーマンが「嫌い」という記憶に、「ママ(パパ)に叱られた、悲しい(怖い)時間」という記憶が、上書きされてしまうから。
「ピーマン = 苦い(本能) + 怒られる(経験) = 大っ嫌い!!」
こうなってしまうと、せっかくの料理も、楽しいはずの食卓も、つらい時間になってしまいます。 ピーマンを克服する道のりが、かえって遠くなってしまうんですね。
今日から気軽にできるポイント
では、どうすればいいのでしょう? 大切なのは、「戦う」のをやめて、「ピーマンと、もう一度“はじめまして”をする機会」を、気長にプロデュースしてあげることです。
完璧を目指さない、今日から気軽にできるポイントをご紹介します。
ポイント①:「苦いアラーム」を、そっと小さくする ピーマンの苦味は、調理法でやわらげることができます。
- 油でコーティング: 苦味成分は油に溶けやすい性質があります。先に油で炒めたり、ツナマヨなど油分のあるものと和えたりすると、苦味を感じにくくなります。
- しっかり加熱する: 加熱することで、苦味を感じる細胞が壊れ、青臭さも和らぎます。クタクタになるまで煮込むのも一つの手です。
- うま味と合わせる: チーズやおかか、お肉など、子どもの好きな「うま味」と組み合わせると、苦味がマスキングされます。
ポイント②:「食べなくてもOK」という安心感 食卓に出すときは、プレッシャーをかけないことが一番。
- 「食べなさい」ではなく、「お、今日はピーマンマンもいるね」と、キャラクターのように紹介するだけ。
- 親がおいしそうに食べて、「ママはこれ、大好きだなあ」と見せる。
- もし一口食べたら、大げさなくらい褒める! もし食べなくても、叱らずに「そっか、今日はまだ気分じゃなかったか」と、あっさり下げる。
食卓は、「できる・できない」を評価する「テストの場」ではなく、「安心できる場」であることが何より大切です。
ポイント③:食卓の「外」で、仲間になる 子どもは、自分が「仲間」だと認めたものを、口に入れやすくなります。
- 一緒に「料理」してみる: ピーマンの種を取るお手伝い。「中はこんな形なんだね」「種のベッドだ!」と、食べ物としてではなく「面白いもの」として触れ合う。
- 一緒に「育てて」みる: もし可能なら、プランターで一株育ててみましょう。自分で水やりをして、大きくなるのを見た野菜は、子どもにとって「敵」から「友達」に変わります。
「嫌い」を、尊重することから始めよう
子どものピーマン嫌いは、親の責任ではありません。 それは、その子の「生きる力」が、しっかり働いている証拠です。
「食べられない」という事実を叱るのではなく、「苦いと感じるんだね」と、その子の感覚を一度、まるごと受け止めてあげること。 そこから、親子の安心できる食卓は始まります。
大人の味覚になれば、あの苦味が「おいしさ」に変わる日は、きっと来ます。 焦らず、気長に、お子さんの「はじめまして」のタイミングを、待ってあげませんか。


