私たちが眠る街で、「おいしい」を運ぶ人たちの秘密の時間。しーんと静かな、夜中の3時。私たちはみんな、あたたかいお布団の中で、ぐっすり夢を見ています。
でも、その頃。
街のひとつの場所だけ、まるで真昼間のように電気がついて、たくさんの人たちが忙しく働いていることを知っていますか?
それが「市場(いちば)」です。
「どうして、そんなに朝早く(というより夜中?)から起きているの?」
「私たちが寝ている間に、一体何をしているんだろう?」
それは、私たちの毎日の「おいしい!」を守るための、とっても大切なお仕事の時間。
今回は、眠っている街を支える「市場の秘密」を、一緒に〈社会科見見〉してみましょう。
<市場が「早起き」な、たった一つの理由>
市場がどうしてあんなに早起きなのか。
その理由は、実はとってもシンプルです。
それは、「私たちがお買い物に行く時間までに、新鮮な食べ物を届けるため」。市場は、いわば「食べ物のリレー」のいちばん最初の走者(ランナー)なんです。このリレーが、どんな順番で行われているか、時間を追って見てみましょう。
- ① 深夜 0時〜3時:【あつまる】
- 日本中(時には世界中)の畑や漁港から、野菜、果物、お魚などを積んだ大きなトラックが、市場にぞくぞくと到着します。
- ② 夜明け前 3時〜5時:【ならべる】
- 運ばれてきた食べ物を、プロの人たちが素早くチェック。「これは形がいいね」「これは新鮮だ」と、品質や大きさごとに仕分けして、オークション(競り)の会場にきれいに並べていきます。
- ③ あさ 5時〜7時:【きまる】(ここがクライマックス!)
- いよいよ「競り(せり)」のスタート!
- 「このマグロ、買いたい人〜!」「はい!」「はい!」
- スーパーや八百屋さん、お寿司屋さんなど、「買いたいプロ」たちが集まって、活気あふれる掛け声とともに、どんどん値段が決まっていきます。
- (※「キャベツが100円の日と300円の日がある」のは、この「競り」で値段が決まるからなんです!)
- ④ あさ 7時〜9時:【はこぶ】
- 競りで買った品物を、プロの人たちが急いで自分たちのトラックに積み込み、お店へと出発します。
- ⑤ あさ 9時〜10時:【とどく】
- スーパーや八百屋さんが開店する頃、さっき市場で競り落とされたばかりの、ピカピカの新鮮な食べ物がお店に到着!
そう。私たちが朝、お店で出会う「採れたて」や「獲れたて」は、私たちが眠っている間に、こんなにたくさんの人たちがリレーをして届けてくれたものだったんですね。
<市場は「新鮮さ」と「値段」の心臓(しんぞう)>
市場は、ただ食べ物を集めて配るだけの場所ではありません。
私たちにとって大切な、2つの役割を持っています。
1. 「新鮮さ」の心臓
市場が真夜中に動くことで、食べ物が畑や海から私たちの口に入るまでの時間が、ぎゅーっと短くなります。市場は、街中に「新鮮な血液(=食べ物)」を送り出す、大きな心臓(しんぞう)のような役割をしているんです。
2. 「値段」の心臓
「競り」があることで、その日の野菜やお魚の「公正な値段」が決まります。天気が良くて豊作なら安くなり、台風の後で不作なら高くなる。市場は、日本中の「今」を映し出す、大きな鏡でもあるんです。
<今日から気軽にできるポイント>
「夜中の3時には行けないよ〜」という私たちも、市場の頑張りを身近に感じる、楽しいポイントがあります。
ポイント①:開店すぐの「トレジャーハント」
- いつもより少しだけ早く、スーパーの開店時間に合わせて行ってみませんか?
- 「あ、今、市場から届いたばかりのトラックかも!」「見て、お魚がピカピカしてる!」
- 開店すぐのお店は、まさに市場から届いたばかりの「宝物(トレジャー)」がいっぱい。その新鮮さを、親子で探検(ハント)してみましょう。
- ポイント②:「どこから来たの?」クイズ
- 野菜やお魚のパックに貼ってある「産地(さんち)」のシールを見てみましょう。
- 「このお魚、北海道から来たって。夜中のうちに市場まで、どうやって旅してきたんだろうね?」
- 地図を見ながら、その食べ物が旅してきた「物語」を想像するだけで、いつもの食材が特別なものに見えてきます。
ポイント③:朝ごはんの「ありがとう」を、もう一人に
- ごはんを食べる時、「農家さん、ありがとう」に加えて、もう一言。
- 「市場の人、朝早くから運んでくれて、ありがとう!」
- 私たちが眠っている間に頑張ってくれた、目には見えない「リレーの走者」たちにも、心の中で「ごちそうさま」を伝えてみませんか。
<あなたの「いただきます」が、リレーのゴール>
市場という場所は、私たちの「当たり前の毎日」を、真夜中から支えてくれている大きなエンジンです。
次にあなたが朝、スーパーで新鮮な野菜を手に取ったら、それはたくさんの人たちが繋いだ「バトン」そのもの。
そして、あなたの家の食卓で「いただきます!」と声がした瞬間が、その長い長いリレーの、いちばん嬉しいゴールなんです。

