コミュニティ 2025年11月4日 読了時間: 6分

「旬じゃない野菜」は、いつから食べられるようになったの?

uno mao
uno mao
株式会社COLBIO 編集者・ディレクター
北海道を拠点に、イベント企画・運営、編集者として活動中。
「旬じゃない野菜」は、いつから食べられるようになったの?

スーパーの”当たり前”に隠された、時間と距離のふしぎ。

寒い冬の日。

スーパーの野菜売り場には、真っ赤なトマトや、みずみずしいキュウリが、当たり前のように並んでいます。

「わあ、便利だなあ」

「いつでも大好きなトマトが食べられて、ラッキー!」


そう思う一方で、ふと不思議な気持ちになりませんか?

ベランダで夏に育てた、あのトマトの思い出。キュウリがぐんぐん育った、暑い日差し。

「あれ? トマトって、夏の野菜じゃなかったっけ?」

「この寒い冬に、どうやって作っているんだろう?」


その「?」は、私たちの食卓と世界をつなぐ、とっても面白い〈社会科見学〉の入り口です。

今日は、この「いつでも会える」の秘密を、一緒に探ってみましょう。

「いつでも会える」を作った、3つの“魔法”

私たちが、一年中いつでも好きな野菜を食べられるようになった。

この「当たり前」は、実はここ数十年の間に、人間のすごい知恵と技術によって作られてきました。

それには、大きく分けて3つの“魔法”が関係しています。

1. 「ハウスの魔法」(ビニールハウスや温室)

これが、日本国内で「旬じゃない野菜」が作られる一番の理由です。農家さんたちは、ビニールハウスやガラスの温室を使って、野菜のために「小さな夏」や「小さな春」を建物の中に作ってしまいます。寒い冬でも、暖房をたいてトマトを育てたり、春のイチゴをクリスマスに間に合わせたり。太陽の光と人間の技術で、季節をコントロールしているんですね。

2. 「地球の裏側の魔法」(輸入)

スーパーで、アスパラガスやカボチャの「産地」を見たことはありますか?日本が寒い冬のとき、地球の裏側にある国、たとえばオーストラリアやニュージーランド、メキシコは、真夏の太陽がふりそそいでいます。私たちは、飛行機や船に乗って、「地球の裏側の旬」をそのまま輸入しているんです。だから、真冬に夏野菜が並んでいるんですね。

3. 「時間を止める魔法」(保存技術)

これは、リンゴやじゃがいも、玉ねぎなどでよく使われる技術です。採れたての美味しい瞬間に、野菜たちが「眠たくなる」ような特別なガスや温度を管理した、ハイテクな冷蔵庫(貯蔵庫)に入れます。こうすることで、野菜の呼吸をゆっくりにして、「時間を止める」ことができます。だから、秋に採れたリンゴが、春になってもシャキシャキのまま楽しめるんです。

“魔法”と、私たちが「交換」したもの

この3つの魔法のおかげで、私たちの食卓は信じられないくらい豊かになりました。でも、この便利な魔法を使うために、私たちは知らず知らずのうちに「交換」しているものもあります。

交換したもの①「エネルギー」

「ハウスの魔法」は、冬に温室を暖かくするために、たくさんの電気や燃料(エネルギー)を使います。「地球の裏側の魔法」は、飛行機や船を動かすために、たくさんの燃料を使います。

交換したもの②「季節のワクワク感」

昔は、「春になったら、イチゴが食べられる!」「夏が来たから、トマトだ!」と、季節と食べ物が強く結びついていました。いつでも食べられる便利さと引き換えに、あの「やっと会えたね!」というワクワク感が、少し薄れてしまったかもしれません。

交換したもの③「旬の本当の美味しさ」

やっぱり、野菜がいちばん美味しいのは、その野菜が一番大好きな季節(旬)に、お日さまの光をたっぷり浴びて育ったとき。便利さと引き換えに、もしかしたら「最高の味」に出会うチャンスを、逃していることもあるかもしれません。

今日から気軽にできるポイント

「じゃあ、旬じゃない野菜は、食べちゃダメなの?」

いえいえ、そんなことはありません!便利な魔法に感謝しつつ、その「裏側」をちょっとだけ知っておく。そして、本当の「旬」をもっと楽しむ。その両方ができるのが、現代の私たちの特権です。

今日から気軽にできる、3つのポイントをご紹介しますね。

ポイント①親子で「産地」探検隊

いちばん簡単な社会科見学です。スーパーで野菜をカゴに入れるとき、親子で「産地(どこで生まれたか)」を見てみましょう。「あ、このアスパラガス、メキシコから来たって!遠いねえ」「このイチゴは栃木県産だ。きっとハウスで育ったんだね」産地を見るだけで、その野菜が旅してきた「時間」と「距離」の物語が見えてきます。

ポイント②あえて「旬のヒーロー」を探してみよう

便利な野菜も買いつつ、今日は「本当の旬のヒーロー」も探してみませんか?冬なら、棚の真ん中にドーンといる「大根」や「白菜」「ほうれん草」。夏なら「ナス」や「ピーマン」。旬の野菜は、たいてい値段が安くて、栄養もたっぷり。その季節の「主役」の味を、ぜひ食卓でも主役にしてあげてください。

ポイント③「昔の人の知恵」を実験してみる

「昔の人は、どうやって冬を越したんだろう?」と、親子で話してみましょう。答えは「保存食」です。夏に採れた野菜を、お漬物や梅干しにしたり、切ってカラカラに干して(切り干し大根など)保存したり。週末に、きゅうりや大根で簡単なお漬物を作ってみる。それも、季節と仲良くなるための、素敵な実験です。

「選べる」って、いちばんの贅沢

「旬じゃない野菜」がいつから食べられるようになったか。それは、ハウス栽培や世界との貿易が盛んになった、ここ数十年、私たちが生まれてからの物語です。

便利な野菜も、力強い旬の野菜も、どちらも選べる。

そして、その裏側にある物語を知っている。

それこそが、今の時代に生きる私たちの、いちばんの「贅沢」なのかもしれませんね。スーパーは、時間と距離を学べる、最高の教室です。



この記事を書いたのは、

uno mao

hokkaido ↔︎ 日本各地

書くひと、編集するひと、企画運営するひと。

株式会社COLBIO 編集者・ディレクター

https://note.com/unomao

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