ニワトリさんの“お部屋代”と、私たちの「選ぶ」キモチ。
スーパーの卵売り場。
ずらりと並んだ、たくさんの卵パック。
特売の安い卵もあれば、栄養価をうたった卵もあります。
その中で、「平飼い(ひらがい)」という文字が書かれた、少し値段の高い卵を見かけたことはありませんか?
「『平飼い』って、いったい何だろう?」
「普通の卵と、何が違うのかな?」
「どうして、こっちの卵は値段が高いんだろう…?」
その素朴な「?」は、命の“暮らし方”について考える、とっても大切な〈社会科見学〉の入り口です。
今日は、卵のパックに隠された、ニワトリさんたちの「お部屋」の秘密を、一緒にのぞいてみましょう。
「ケージ飼い」と「平飼い」って、どう違うの?
この「値段の差」の謎を解くカギは、ニワトリさんたちが暮らしている「お部屋のタイプ」の違いにあります。
日本で売られている卵の多くは、この2つのどちらかの方法で産まれています。
1. 一般的な「ケージ飼い」
- どんなお部屋?
- 「ケージ」は「カゴ」のこと。ニワトリさんたちが、一羽ずつ、あるいは数羽ずつ小さなカゴのお部屋に入って、それがマンションのように何段にも重なっています。
- よいところは?
- ・狭いスペースでたくさんのニワトリさんを飼うことができます。
- ・卵が自動でコロンと転がって集められたり、フンが下に落ちて衛生的だったり、管理がしやすい工夫がたくさん。
- ・だから、卵の値段を安く、安定して私たちに届けることができます。
- ちょっぴり窮屈?
- ・ニワトリさんにとっては、お部屋が狭いので、自由に走り回ったり、羽を大きく広げたり、土の上で砂浴び(お風呂)をしたりするのは難しいかもしれません。
2. 「平飼い(ひらがい)」
- どんなお部屋?
- 「平らな地面で飼う」という字の通り、鶏舎(けいしゃ)という建物の中や、時には外の地面の上で、ニワトリさんたちが自由に歩き回れるお部屋です。
- よいところは?
- ・ニワトリさんたちは、好きな時に走ったり、砂浴びをしたり、止まり木に止まったり。ニワトリさんらしい「普通の暮らし」ができます。
- 大変なところは?
- ・広い土地(お部屋)が必要になります。
- ・ニワトリさんがあちこちで卵を産むので、スタッフさんが毎日歩いて卵を集めなければなりません。
- ・地面のフンのお掃除も、とっても手間がかかります。
「値段の差」の正体は、いったい何?
もう、お分かりかもしれませんね。
「平飼い」の卵が高い理由、それは、ニワトリさんたちが「自由に暮らす」ための、“お部屋代”と“お世話代”なんです。
1. 高い「お部屋代」
「ケージ飼い」と同じ面積でも、「平飼い」だと、飼えるニワトリさんの数はぐっと少なくなります(例えば10分の1くらいになることも)。
ニワトリさん一羽あたりの「家賃」が、どうしても高くなってしまうんですね。
2. たくさんの「お世話代」
「ケージ飼い」が自動化しやすいのに比べて、「平飼い」は、卵を人の手で集めたり、地面を掃除したりと、たくさんの「人手」と「時間」がかかります。その「お世話代」も、卵の値段に含まれています。
つまり、「平飼い」の卵を選ぶことは、ただ「卵」というモノを買うだけでなく、「ニワトリさんたちが、のびのびと暮らせる環境」を、私たちが応援することにもつながっているんです。
こういう、「家畜(かちく)も、できるだけ幸せに、健康的に暮らせるようにしよう」という考え方を、「アニマルウェルフェア(動物福祉)」と呼びます。世界中で、この考え方がどんどん広がっているんですよ。
今日から気軽にできるポイント
「じゃあ、これからは高い卵しか買っちゃダメなの?」
いえいえ、そんなことはありません!
「安い」というのも、家計にとっては、とっても大切な価値ですよね。
大切なのは、「知った上で、選ぶ」こと。
今日から気軽にできる、3つのポイントをご紹介します。
ポイント①:親子で「食べ比べ」実験!
- 一度でいいので、「ケージ飼い」の卵と「平飼い」の卵を、両方買って「卵かけごはん」で食べ比べてみませんか?
- 「どっちの黄身が濃いかな?」「味の違い、わかる?」
- (実は、味や色の違いは「エサ」の違いによることも大きいのですが…)「こっちの卵を産んだニワトリさんは、元気に走り回ってたんだって」と、背景の物語を話しながら食べる。それだけで、最高の食育になります。
ポイント②:「お部屋のタイプ」を想像してみる
- 卵を買うとき、値段だけでなく、「この卵を産んだニワトリさんは、どんなお部屋で暮らしてたのかな?」と、一瞬だけ想像してみましょう。
- パッケージに「平飼い」と書いていなくても、「〇〇農場で大切に…」など、ヒントが書かれていることもありますよ。
ポイント③:「わが家の“選ぶ”基準」を話してみる
- 家族で、「うちは何を大切にする?」と話してみるきっかけに。
- 「いつもは家計のためにこっちの卵だけど、今日は特別な日だから、元気に走り回ったニワトリさんの卵にしてみようか!」
- 「安さ」も、「ニワトリさんの暮らし」も、どちらも大切な価値観。その日の気分や、お財布と相談しながら、家族で選ぶことを楽しんでみてください。
卵売り場は、小さな「投票所」
「平飼い」の卵がなぜ高いのか。
それは、ニワトリさんの「自由な時間」と「広いお部屋」、そして「手厚いお世話」のコストが、優しさとして込められているから。
どちらの卵が「正解」で、どちらが「間違い」というわけではありません。
でも、スーパーの卵売り場に、そんな「暮らし方の違い」という物語が隠されていることを知るだけで。
いつもの「いただきます」が、少しだけ深く、ありがたいものに変わっていくはずです。
卵のパックを選ぶその手は、「どんな未来の農業を応援したいか」を表明する、小さな「投票用紙」なのかもしれませんね。




